―――午後6:00分 桜通り並木道

「やぁ――っ!」
「ほらほらほらぁ!」

私は夕凪で、向こうは両手から生えた剣で何合打ち合ったか分からない位まで打ち合っていた
いや、実際に仕掛けているのは殆ど私、向こうは受けたり弾いたりと防御に回っている…が
向こうは私を過少に見ているか自分を過信しているかのどちらからしく先程から手を抜いているかのような発言しかして来ない
幾ら神鳴流の技を使ってはいないとはいえ、向こうの態度には不快感を感じる。
それに今朝配られた資料によると『此花始はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの従者であり
戦闘スタイルはアーティファクトの能力で変身しての肉弾戦及び一部の無詠唱魔法』となっている
まだまだ自分の手の内は晒さないつもりか?…ならば出す前に斬る!

「『神鳴流奥義 斬岩剣!!』」

ギィィィィィン!!!

「…以外に重かったな、だがっ!!」
「なっ!?片手でっ!?」

馬鹿な!?斬岩剣を片腕で止めた!?…まずい!空いた右腕が……

「『紅蓮剣』っ!!」
「ぐっ…あぁぁっ!!」





あ〜〜〜〜〜っ…危ねぇ、危ねぇ…
最初の方で『ラクカジャ』使ってて正解だな、じゃなかったら受けきれない威力だぞ、最後のアレ
俺の方もイイ感じで入ったみたいだし、コレで終わりか?

「まだまだぁ!!斬鉄閃!!」

まだ来るんか!?口から血出てんぞ?内臓イッたんじゃねぇか!?

ズシャァァッッ

チィッ!何で高々辻斬りなんぞがそこまでヤル気なんだってぇの!?

「なろっ『バイオクロウ』!」
「がはっ…」
「その刀も…邪魔だ…」

カキィィン……

さっきの『紅蓮剣』で当てた所と大体同じ場所に『バイオクロウ』を当てて、刀を弾いた
……本当は折ってやろうかと思ったんだが、結構硬かったんだな
ま、もういい加減グロッキーだろうよ……結構ダメージキテる筈だか…ら

「はぁー……はぁー……」

…マジでか?何で立つ?ヒザなんざガクガク笑ってるし





斬岩剣を片腕で受け止められてから…一気にかなりのダメージを受けた…
腹部に2度、1度目が当たってしまってから…何度か血も吐いてしまったが…まだだ、まだ戦える…

「はぁー……はぁー……」

必死の力で立ち上がる…がそれ以上は身体がいう事を聞かない…夕凪を杖代わりにしようにも手元に無い…
でも…ここで私が倒れれば…誰がこのちゃんを…守…る…



……

………






「あー…やっと気絶してくれたか…正直あのままやってたらどうしようかと思ったぜ…マジで」

いくら食い物の恨みがあるって言っても女子生徒の辻斬りと殺し合いをしたらマズいだろうよ

「…とにかく傷を治さないとな『ディアラマ』」

女の子だから身体に傷が残ったらマズいだろうし、ここは念入りに治療しないとな
透き通った白色の光が辻斬り(名前知らんからな)の身体を包んでさっきの戦いでの傷が治っていく
1〜2分経った頃にはパッと見では傷は残っていなかった
んじゃ、変身解いて説教といきますか!1時間は覚悟しておけよ辻斬り!今日作る予定だったロールキャベツの恨みを思い知れ!!

「アベアット」

…と変身を解いたところで

「刹那っ!!」

と声がしたので振り向くとモデル体形でロングヘアー、褐色の女子生徒が走って近づいてきた
…女子生徒って言ったのは制服着てたからなんだけどな

「君?この生徒の知り合い?」
「はい、龍宮といいます」

俺は刹那と呼ばれた辻斬りを一度龍宮に預け、まだ傷が残っていないかどうか診てもらった
龍宮曰く「傷は殆ど無く、直ぐにでも目を覚ますだろう」との事
しかし龍宮って怪我とかに結構詳しいな、その容姿に反して保健委員か?または運動部のマネージャー?



……

………

で向こうの目が覚めた今現在、桜咲刹那(辻斬り)を芝生の上で正座させて説教中
龍宮は俺と桜咲の間に立っている

「…つまり桜咲は2度も学園長のジジイん所でやらかした俺を危険だと判断して辻斬りった…と」
「……」
「ま、そんなところだね」

そりゃあ確かに狙われるっちゃあ狙われるけど…

「いくら何でも辻斬りはマズイんじゃないか?桜咲?」
「……」
「それに見ろ、最初の不意打ちのおかげで晩飯と買い置き分の食材みんなパーなんだけど」
「……」

黙りっぱなしかい…流石にイラって来たぞ

「桜咲、お前黙ってたら何も分かんねぇだろう?それとも「全部私が悪かったから何でもします」ってやつか?
 ホレ、違うんだったら何か言ってみ」
「此花先生、話をしている中悪いけれども、ちょっと先に喋らせて貰って良いだろうか?」
「いいけども、あまり関係無い話はやめてくれよ龍宮」

…ん?弁護でもするんか?それにしては表情がさっきの桜咲みたいなんだけれども
まさか襲って来るって訳じゃないだろうな?

「単刀直入に言わせて貰おう…先生は一体何者なんだい?」
「あぁ?どういう意味だ龍宮?」
「先生は『アーティファクトの能力で変身』と言っている様だけど本当は違うんだろう?」
「た、龍宮!?本当か!?」

俺の問い掛けには無視でそっちは速攻で食いつくのな…軽く傷ついたよ
…つーか龍宮もこっち側か?

「因みにカマを賭けている訳では無いよ、私の目は特別でね色々見えるのさ」
「うっわ、ス○ウターか?」
「…真面目な話だよ」
「……あー、はいはい」
「で?どうなんだい?先生?」

マズった…まさかスカ○ター持ちが居るとは思わんかった、そして直ぐバレるとも思わんかった
…そして桜咲、お前の目線かなり痛いんだけどもう少し緩めてくれない?

「まぁ言われた通り、見ての通り俺は「アデアット」とか「アベアット」なんて言わなくても変身は出来る
 …んで龍宮の質問の答えだけども正直俺自身も良く分からんのだよ、ガキん時から『変身出来るハタ迷惑なヤツ』ってのは
 思いっきり理解しているんけどな」

「アデアット」と言わずに自然体で変身した俺を2人は真っ直ぐに見つめていた
龍宮は自分の言った事が当たってたからか少し満足した様な表情、桜咲はさっきよりも更に視線がキツくなった

「学園長、高畑先生、そして刹那。この学園の実力者達を倒しておいて良く分からんは無いだろう?」
「そう言われてもなぁ…さっきも言ったが何せ俺自身が人間なのか化け物なのかどうかさっぱりだし
 誰かに聞きたくても俺は物心付いた時から孤児院にいたからな」
「孤児……ですか?」

桜咲が『孤児』って所で食いついて来た
ま、珍しいんだろうな普通は両方、少なくても片方の親が居るんだからな

「まぁな、ついでに言えば孤児院に入る前の記憶ってのは一切覚えてない。親の名前とか何処に住んでたとかが全く分からないんだ」
「「………。」」

2人の沈黙が痛い…この空気キツいよ…話題を変える為変身を解いて軽めの口調で話しかけた

「…と話がちょいとズレたけども俺は2人が見ての通りのモンさ『人間』と見るか『化け物』と見るかは2人次第だよ
 あ〜でも学園長のジジイとかにはあまり騒がれたくないから黙ってていて欲しいなぁ」

最後の方は口調は軽めだけどマジな願い、正直あのジジイに借りなんぞ作ったら何やらされるか…

「あのっ…」
「どした?桜咲?」
「先生は……先生は怖くないのですか?回りから『化け物』と呼ばれて蔑まれたり、人として生きたくても
 回りから許されずに過ごしていくのが…」

さっき迄とは違う…睨め付ける鋭い表情から弱々しく何処か泣きそうな子供を思わせる表情へ変わった桜咲
ここまで感情を入れられるって事は桜咲自身に何か関係があるんだろう、龍宮は何か驚いた表情だが今は放置しておく
 
「そうだな、俺が桜咲位の頃は髪の色やら目の色で色々と大変だったし変身の事なんて誰にも言えなかった
 …実際何度か変身して大騒ぎになった事もあったしな」
「はい…」
「………」
「それでも俺を養ってくれたオヤジと母さんは何をやっても、どんな時でも変らず『息子』として接してくれていた」

オヤジは毎回拳骨落として、母さんは優しく諭してくれてたな…拳骨は本気で痛かったが

「最初の頃は迷惑だって思ってた、わざと距離を取った事もあった…」
「「………」」
「けれどある時その考えが変る出来事があって「本当に大切に思ってくれている人には、俺も同じようにそれ以上に応えよう」って
 思うようになったんだ。だから俺は自分が『人間』だの『化け物』だのとは拘らない、拘るのは『此花始』であるかどうかだけ
 …ちょっと分かり辛かったかも知れんけど、コレで良いか?龍宮?」
「あ、ああ…変な事聞いて済まなかったね、先生」
「桜咲もこんな感じでいいか?」
「はい、申し訳有りませんでした…」

か、硬い…何か俺追い込んだんか…?まぁそれはそれとして

「…んで、そこでさっきから黙ーって盗み聞きしてるタカミチさんもいい?」
「「えっ!?」」

…2人共気づいて無かったんか、結構バレバレだったんだけど

「ハハハ…出るタイミングが無くてね、すまないね始君」

木の陰から苦笑いしながらタカミチさんが出てきた…ってか何で来たのかな?

「私が呼んだんだ、高畑先生は私達の担任だからね」

あー、そういう事…世の中狭いわー…

「ん〜…じゃ、キリも良いしコレでこの話も終わりにしようか」
「え?もう終わりなのかい?」
「何か不満でも有るんかい?龍宮?」
「いや…無事に済んだとは言え先生は大怪我をするところだったのに、こんな簡単に話を済ませていいのかい?」
「いやいや、これで十分だろう……『辻斬り』の方は」
「「「は?」」」

忘れたとは言わせねぇ、俺の晩飯の食材+買い置きの分!!
正直「学生に奢らせるのもなぁ」と悩んでいたんだがタカミチさんが居るなら話は別だな

「最初の一発目で無残な姿になった俺の晩飯の食材や買い置きの方はまだ終わっていないぞ」
「「「あ…」」」

…桜咲は忘れるなよ

「だけどもいくら弁償しろって言っても流石に桜咲から金は取れない訳で…分かるっすよね?タカミチさん?」
「…奢れって事?」
「そう!!いやぁ話が早くて助かるっすよ!!…龍宮と桜咲も来い、タカミチさんの奢りだから気にしないで良いぞ!」
「ええっ!?ちょ、ちょっと始君!?」
「いいからいいから〜、たまには器の大きい所見せとかないとね〜」

ガシッ

「ご馳走になります、高畑先生」

ガシッ

俺と龍宮でそれぞれ脇から腕を通して逃がさないようにしながらタカミチさんを街まで引きずって行き
それなりに高そうな店(焼肉)に入ってたらふく食べた、何気にタカミチさんは涙目だったが、その辺は気にしないでおこう




…そしてタカミチさんとは別に、桜咲の表情は最後まで重く食事もあまり食べていなかった
俺の話の途中からずっとあの表情だったので正直心配だ…せめて話を聞ければ手の打ち様もあるんだが…
年頃の女の子ってのは正直分かんねえんだよなぁ




あとがき

文章ではあっさりと決着ついてますが本当はそれなりに時間かかってますよ
しかし、イイ話やシリアスってのは正直書いてて難しい…それと原作キャラの性格もきちんと書けているか心配です
「何か違くね?」と思われても、なま暖かい目で見てやって下さい

〈続く〉

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