―――午前8:30分 麻帆良学園女子中等部校内グラウンド

全校集会…学生の頃の俺だったらほぼ確実にサボっていたであろう行事に今、俺が教師側で立っている

「…『人生は小説より奇なり』ってことわざは本当だったか」

なんて呟きながら…
そういえば今朝、俺の『悪魔化』の事についての話があった。学園長改めジジイ(もうジジイで通す)
曰く俺の立場はエヴァの『魔法使いの従者(ミニステル・マギ)』と言うのになるそうだ、当然エヴァ事を『マスター』なんぞ呼ばんがな
そして変身する時に「アデアット」、変身を解除する時に「アベアット」と言ってくれとの事
何でも俺の変身を『アーティファクト』とやらの能力にするらしい、何だっけ『アーティファクト』って?
…んで今現在ジジイが台の上で俺の事を女子生徒達に話していた
最初は「え〜」とか「男の人?」なんてブーイングが聞こえてたが、今はなぜか歓迎ムードになりつつある
…俺が言うのも何だが大丈夫かここの女子生徒?

「――それでは此花先生からも一言挨拶を貰おうかのぅ」

出番か…まぁテキトーに済ますかね、ジジイが立っていた台に上がってマイクに向かって…
「俺の歌を聴けぇぇぇぇぇぇっっ!!!」…なんて言えたら良いなぁと無性に思った、実行は出来なかった

「只今学園長から紹介に与りました此花始です
 この度縁…と言うより学園長の策略、陰謀、奸計その他諸々の言い方にて広域指導員と女子寮の管理人代理をやる事になりました
 再来年の3月迄という短い期間ですが、皆さん宜しくお願いします」

若干の恨み言を言いつつテキトーに纏めた挨拶の反応が意外にも

パチパチパチパチパチ!!

…大盛況だった
所々「よろしくー!」とか「遊びに行ってもいいー?」とか聞こえてきた、本当にお前ら危機感とか持ってんか!?




 
おいおいおいおいおいおいぃぃぃ!!なんなんだよこの状況は!?男!?しかも20代って!?
ってかアイツ昨日の自称『通りすがりのタイヤキ屋さん』じゃね――か―――!!!
おかしいだろ普通!!男に女子寮の管理人なんてやらせたらマズいだろう!?どうして誰もソコに突っ込まないんだよ!?
それどころかウチのクラスの椎名ときたら「遊びに行ってもいいー?」なんて言ったし
でもどうして急にこんな状況になったんだ?最初の方は皆否定的な空気だったのに気づいたら歓迎ムードになっていた…
ただ単に私以外の奴らが能天気だったって話なのか…それとも…
いやいやいやいや!そんな訳がない『魔法』なんてそんなファンタジーなものが…
……でも、もし本当に『魔法』があったとしたらあの時や今の状況の説明は出来るけど

「もし誰かに喋ってみろ…貴様の血1滴残らず吸い尽くしてやる」

―――っ!!!

そうだ…ダメなんだ…調べたり油断して口を滑らそうものなら何時エヴァンジェリンに口止めさせられるか分からない
気になるのは確かだけど、それ以前に自分の身の安全の方が大事だ
そうだ…もうこの事を考えるのは止めよう
現実の世界では私は何時も通り1歩下がって見ているだけでいいんだ、それが私にとって一番なんだ





―――午後3:30分 女子寮内管理人室

「あぁ…マジで女子寮に来てしまったよ…」

集会が終わった後赤い髪でパイナップルみたいなヘアスタイルの女子生徒がマイクやらカメラ持って追いかけて来た為全力で逃げていた
恐らく2時間位逃げたり隠れたりしていたが…果たして授業の方は良かったんだろうか?
とりあえず奴の事はこれからパパラッチと呼ぼう、名前知らねぇし

「…それにしても生活感殆ど無い部屋だな」

聞いた所によると…
本来の管理人の婆さんは高齢の為、通いで管理人の業務をしていたらしい
その為台所や居間はそれなりに使っていた様だが、寝室や風呂等は全くと言って良いほど使っていないとの事
更に言えばその婆さんはかなりアグレッシブで掃除や寮内の見回りを頻繁にやってたので、管理人室は基本無人であったそうだ

「まぁ、新しい自分の部屋と割り切るか…」

…別に家具と食材が余り無いこの現実に目を背けている訳では無いんだぜ

「とりあえず食材の買出しだな、金はジジイから貰ったし」

ジジイが「このお金で色々と必要なものを買っておきなさい」と言って支度金を用意してくれた…正直給料の前払いでなくてホッとしてる
差し出された茶封筒はそれなりに厚みがあり、この時は素直に感謝した

「先ずは食材だな、さて…何作ろうかな…と」

『一応』広域指導員なんて肩書き持っちまった為に少し不本意ながら
背広(エヴァ宅に置いてあったタカミチさんの物)に袖を通したままちょっと早めの夕食の買出しに出かけた





―――放課後 麻帆良学園女子中等部校舎 屋上

「どういう事だ!?龍宮!?」
「少し落ち着け刹那、そんなに詰め寄られては話が出来ん」

私―――桜咲刹那はクラスメートであり『仕事仲間』である龍宮真名から聞いたある事に対して驚き、勢いを付けて龍宮に迫っていた

「す、すまない…」
「構わないさ、それだけ近衛の事を心配しているんだろう…?
 それで「今朝集会で新しく広域指導員になった此花という男だが昨日学園長室で何をしていたか分かるか?」…まで話をしたな?刹那?」
「ああ…」
「実際、朝と放課後の2度学園長室をエヴァンジェリン達と訪れたのだが…その2度共に学園長に何らかのダメージを与えているとの事だ」
「…なっ!?何故そんな人物が広域指導員として採用される!?」
「恐らくは監視じゃないのか?どうやったかは知らんが2度も学園長…1度目の時は高畑先生も巻き込んだ手練らしいからな」
「そのような危険人物を麻帆良の外に出さないようにする為の処置…か」

話を聞いて私は正直恐ろしくなった、学園内で最強と言われた学園長が2度もその男にやられた
…それは学園内でその男を倒すことが出来ない事を意味していると同義だろう、もしその男がお嬢様に牙を剥いたなら…

「――――っっ!!」

瞬間、私は居ても立っても居られずに私は愛刀である『夕凪』を持ち屋上から階段へ向けて走り出した

「おいっ!刹那!待てっ!!」

後から龍宮が私を止めようと声を張り上げていたが構ってはいられない
私はお嬢様の剣、お嬢様に危険が迫ろうとしているなら私はそれを切り捨てる!
お嬢様…このちゃん…絶対にウチが守ったるからな…




「…近衛の事になると直ぐに頭に血が上るのは分かってはいたがまさかこれ程とはね」

しかし幾らなんでも『学園長→近衛木乃香』はいささか考え過ぎではないだろうか?

「早く追いかけないとな、このままだとあの人に襲い掛かりそうだし」

…と言っても実際に心配なのは此花始の方ではなく刹那の方だ
先程刹那が飛び出して行った為に伝えられなかったがあの男は…何かが違う
はっきりとした事は私の『魔眼』を持ってしても分からなかったがそれでも私や刹那より強いのは確実に分かる
だから私が行くまで不用意に仕掛けるんじゃないぞ、刹那…





―――午後5:30分 桜通り並木道

「見回りついでに見に来たが…本当に跡形も無いな」

只今最初にエヴァと戦った(意識は無かったが)場所に来て現場がどうなってたか一目見たかった
…と言っても既に魔法で何事も無かったかの様に直されているんだが

「やっぱ魔法ってすげーな…」

俺が今まで関わった事の無い力に対しての正直な感想

「って言っても俺もあちら側からすれば同じなんか…?」

俺はエヴァやジジイ曰く『異端』らしい、向こうではほぼ必須の『始動キー』やら『詠唱』なんかが一切無いとの事
一部俺みたくいきなり撃てるのがあるらしいが、そこまでの威力は無いって言ってた
でも正直な感想として『詠唱』ってちょっとカッコイイと思ってたりもする
「七つの鍵をもて開け地獄への門」とか「出でよ!神の雷!」とか使ってみたいな
なんてなー!はっはっは――はぁ……さて、帰って晩飯でも――

「――覚悟っ!!」
「なぁっ!?」

ザンッ!

刀ぁ!?ってあぁ!?買い物袋が真っ二つに!!ってか辻斬り!?おいおい大丈夫か?この学園の治安は!?

「オイ!お前!?どおしてくれんだよ!?俺の晩飯の材料!?」

とりあえず普通(?)に抗議してみるが…

「………。(チャキッ)」

無視無言、更に刀を構え直したりしている
こりゃあもう確定だな…「間違いでした」なんて言い訳が通るなんて思うなよ

「お前は…新米広域指導員の俺にケンカ売ってるって事でいいんだな…?」

俺の広域指導員の初仕事が『辻斬りを軽くボコって捕まえる』って所が少し引っかかる…が

「ガキだからって容赦しねぇぞ、アデアット!!」

俺に売って来たケンカは相手が誰であろうと高値買取だぞコノヤロウ!!
『魔法の秘匿』?んなモン知るか!後でジジイでも呼んで魔法で記憶消させるからイイんだよ!ってか食い物の恨みは怖いんだからな!?

「いよっしゃぁ!!聞く耳持たないぜぇブラザー!!」
「っ!?何訳の分からない事を!!」





…てか俺、麻帆良に来てから毎日変身してない?

〈続く〉

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