―――午前6:45分 麻帆良学園女子中等部 学園長室前

此花君とエヴァの話を聞き、茶々丸君の映像を見たワシがまず感じたのは『驚き』じゃった…
変身(此花君は『悪魔化』と言っておったのう)した此花君の姿もそうじゃが搦め手ではあるがエヴァ(従者を含め)に勝った事
と見た事の無い魔法と技…詠唱を全くせずに高い威力を持つ魔法に何時タネを仕込んだかすら悟らせない技
これはエヴァが最初此花君の事を隠そうとしたのが良く分かるわい…この力は全くの『未知』であり『危険』であるからのう

「これが昨日起こった事の全てだ」
「またしょうも無い手で負けたのか、エヴァ…」

それを聞いたエヴァは顔を真っ赤にしおった…ほっほっほ、からかい甲斐があるのう

「何を言うかー!ジジィー!」
「ちょい待ちエヴァ、落ち着いて」

ワシに飛び掛ろうとエヴァを此花君が後から羽交い絞めで抑えてくれた、なかなか良いタイミングじゃ

「学園長…あまりふざけている場合では…」

タカミチ君から釘を刺されてしもうたか、まだまだ続けたかったんじゃが…しょうがないのう

「…うぬ、話は分かった。して此花君、君はこれから如何したいかね?」
「どう…ってのは?」
「簡単に言えば2つの道がある、一つは昨日起こった事を全て忘れ『表』の生活を過ごす道」
「………。」
「そしてもう一つはこのまま「裏」の世界に踏み込む道じゃ…
 ワシとしては正直な話「表」側の君には此方には来て欲しくないんじゃがな」
「その…全て忘れるってのは『無かった事』って事にしろって事なんすか?」
「いや…其の侭の意味じゃよ
 ワシ達魔法使いは目撃者等に対しての「処理」として魔法使い達に関しての記憶を魔法で消すことにしておる」
「………」

正直な話、此処までの力を見せ付けられたんじゃ…
記憶を消した後に監視を付けて保護観察と言った所じゃな
それにこの麻帆良から少なくとも2〜3年は出れんようにせんといけんしのぅ…

「学園長……いえ、何でもありません」

…む、珍しいのうタカミチ君、何故にそんな複雑な表情をしているのかね?

「さて、此花君や…急がせて申し訳ないが何分今日も授業があるのでのぅ、君の答えを聞かせて貰えんかの?」
「えーっと……これから宜しくおねがいしますね、学園長」

………ふぉ?

「あー……此花君?其れが君の答えなのかね?」
「はい、そうですけど……何か間違えました?」

……軽っ!?

「急がせたワシが言うのも何じゃが…決めるの早すぎるのではないかのぅ?」
「う〜ん…早すぎって言うか…元々そっちの仲間に入れてもらおうと思って来たんですよ
 …まぁ、話すタイミング完全に逃しちゃいましたけど」

最初は悪戯をした子供の様な笑みを浮かべて「…まぁ」の辺りから右の人差し指を眉間に当てながら切り返してきおった……

「ソレに…『忘れますー』って言ったって、ハイそうですかって事にはさせてくれないんでしょ?学園長?」
「ふぉっ!?」
「何だかんだ言ってこの街から出ない様にするつもりだったんじゃないですか?」
「ふぉおおおっ!?」
「…こ、此花君?どうして分かったんだい?」

こりゃ!タカミチ君バラすでない!エヴァが思いっきり睨んで来ているじゃろうが!!

「どうして…って………何となくっすかね?」
「「「えっ!!!???」」」」

「何となく」で考えを読まれたのか…ワシ…

「付け足すなら『俺が学園長や高畑さんだったら俺みたいなヤツをどうするかな』……って考えただけですね」
「「………。」」

鋭いのか天然なのか分からんのぅ、タカミチ君なんぞ唖然として動かんぞ

「………。(じー)」

…な、なんじゃ?始君?何故そんなに見ておるんじゃ?

「で、あと学園長のコネとかで働き先紹介して貰いたいんですけど」
「な、何じゃと!?」
「そりゃあ俺の事監視しようとしたりするつもりだったんですから働き先の1つや10は確保してあるんでしょ?」
「う…ま、まぁなんじゃな…」
「俺の希望としては飲食関係でお願いしたいんですよ、俺の実家洋食屋でして…今回麻帆良に来たのも修行が目的なんですよね」
 
ち、ちょっと待たんか此花君…
は、話が早い…
 
「…で、それからそれから………」
「ふ、ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ―――――――――っっっ」

こ、ここまでとは全く考えておらんかったぞワシは!頼みのタカミチ君はまだ戻って来ておらんし
ち、ちょっと待ってくれんか―――――――!!!!!





クックック……
ジジイの奴完全に参っているようだな、始が此処まで出来るとは思ってもいなかった様だ……正直私も予想外だったが
兎に角、このまま行っても良いがもう少し追い詰めても良いだろう
…このまま私の出番が無くなったままってのも気に食わんしな

「おいジジイ、悪巧みが好きなオマエの事だ直ぐに1つや10位出るんだろう?よもや『考えていなかった』なんて言わないよなぁ?」
「ふぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」

ふん、こんなものか…
しかし始の奴、此処まで考えて…はいないだろうが
本当に「何となく」でこの状況を作っている…この現実には眩暈を覚えるがな
それに先程も…今まで幾度と無く罵詈雑言を浴びせられていたのだから堪えるものなど無いが
それでも始は本気で怒っていた様だったな…私の為に本気で怒る奴など今まで居なかったと言うのに…お前は……

「ふぉ……お……」

どさっ…

む、ジジイがくたばったか…まだもつと思っていたんだがな…
まぁ直ぐ決めれる話ではないし、今はこれで引いておこう
あまり長引くとガキ共が登校してくる時間だしな

「タカミチ、そこの狸寝入りしているジジイに伝えておけ『放課後にまた来るからその時迄に決めておけ』とな
 始、お前は一度家に帰っていろ、5時間目が終わった辺りで茶々丸に連絡を入れさせる」
「ん、わかった」

意外とアッサリ引いた始が「ん〜…やりすぎたか?」と呟きながら私の隣に立ち
そのまま3人で学園長室を出る




少し歩いた後「学園長―――――!!!」なんて声も聞こえたが私達には関係の無い事だろう

「あー…やっぱやりすぎたか…」
「気にするな」
「ん、そうする…でさ、2人のケータイの番号教えてくれない?」
「私は持っていない、そんなモノは全て茶々丸に任せている」
「マジでか?」
「はい、その通りです始さん」

あんな物別に持たんでも良かろう、面倒くさいだけだ

「そっか…じゃあ茶々丸番号教えて…ってか携帯貸して、俺の番号入れるから」
「こちらになります」
「お、同じ○uだな…ってか機種俺と同じじゃねえか、色違いだけど」
「そうですか」
「このメーカーの機種結構使いやすくてさぁ…」
「はい、事前に調査しましたので…」

…なぜ、ただ番号を知るだけだというのにこんなに話し込む?
始!なぜそんなに楽しそう(エヴァ視点)に茶々丸と話している!?それに何だ!?この疎外感は!?




…放課後にジジイ脅して手に入れてみるか






―――同時刻 エヴァ宅

「暇ダー…」

ナンデ俺ダケ置イテ行クンダ?オイ?

〈続く〉

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