金髪の少女side

―――麻帆良学園都市内 桜ヶ丘4丁目29 ログハウス内

―――パシッ―――

「…む」

現在20:50、夜の帳の降り私の過ごしやすい時間帯になった頃
この学園都市の周りに張り巡らされている結界に反応があった

「何か来たな…」

…まったく面倒くさい、何故私が当番の時に侵入者が来るのだ

「仕方ない調べるか…」

呟きながら私はベッドから降りる

「茶々丸。」
「はい、マスター」
「学園都市内に入り込んだヤツがいる、出るぞ」
「了解しました。」

私は側に控えていた『魔法使いの従者(ミニステル・マギ)』絡繰茶々丸に一声かけてから支度を始めた

フッ、まぁ何者かは知ったことではないが…暇つぶし程度にはなるだろう。
この「闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)」エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル様のな…
クックック……ア―――ッハッハッハッハ!!!!!
「マスター、声に出ています。」



……

………

私は茶々丸の肩に乗り反応があった地点に向かっている

「マスター、転移反応を確認しました。」
「転移先は?」
「はい、さくら通りです。」
「数は?」
「5体確認しました。」
「周辺に人払いと防音の結界を展開しろ、私自ら相手をしてやる」
「了解です、マスター」

移動しながら耳元やアンテナの先端が開き、結界を展開し始めた所で茶々丸が

「反応の1つが消失。マスター、さくら通りで戦闘が始まったようです。」

何?私より先に動いた奴がいたのか?

「茶々丸、結界は?」
「後12秒ほどで展開完了します、また17秒ほどで戦闘区域に到着します。」

チッ、先に手を付けられたのなら急ぐ必要もないが結界を展開していないのが気になるな…

「茶々丸、結界展開後上空に上がれ。上から確認する」
「了解です、マスター。」

空から現場の状況を確認して私の疑問の一つが解決した、戦闘が始まったのは私より先に動いた奴が
いるのではなく、ただ単に仲間割れを起こしているだけだった。

「フン、つまらんな…」

そう呟きながら私はもう一度下に目を落とし、一番暴れているヤツに目を合わせた瞬間…

「――――ッ!!!」

そいつと目が合った、いや正確には相手に目が無かったので視線だけだが
それでも十分私に数百年ぶりにある『感情』を感じさせた…

―――恐怖―――

吸血鬼となり600年、なりたての頃はいざ知らず。今では「闇の福音」と畏怖されるこの私が…

「…マスター。」

茶々丸の声で私は我に帰った。

「敵残数1、どうしますか?マスター?」

残っているのは先程のヤツ…
面白い、私にあのような感情を抱かせて無事でいられると思うな!!

「茶々丸、仕留めるぞ。行け」
「はい、マスター。」

茶々丸は直立の体勢から一気にヤツに向かって突進した
ヤツもこちらに気付いたようで両腕から剣を出し、こちらを警戒し始めた。
だが先に、茶々丸のロケットアームがヤツに向けて打ち出されていた

「ガアッ…」

直撃した…がヤツには大して効いていないのか?
すぐさま体勢を立て直し此方へ向かってくる
…しかし先程は気付かなかったが、ヤツの体全体には青白い光の線が走っている。

「させません。」

ヤツの動きを読んでいたかの様に茶々丸が先回りしもう一度ロケットアームを打ち込む。

「ガフッ…」

今度は腹部に命中。流石に効いている様だ、先程より距離が開いた。
この距離は魔法使いの間合いだ、すかさず懐のフラスコに手を…

「…アギ」

いつの間にかこちらを向いているヤツが私に向かって火球を撃って来た
見た目は大した事なさそうだったが、込められていた魔力の密度は油断出来なかった
速度も十分、避けられない…と感じた私は『魔法の射手(サギタ・マギカ)』に使うつもりだったフラスコを障壁の媒介に回す

「チッ、『氷楯(レフレクシオー)』』!!」

バァン!!

魔法薬を媒介に作った障壁では威力を完全に殺すことは出来なかった
『氷楯』を破壊した余波で私は後ろに飛ばされた。

「マスター!!」

私とヤツの間に茶々丸が入ったが突進してきたヤツに弾かれた
だがその一瞬、すぐさま反撃の為にフラスコを手に取った

「喰らえ!『魔法の射手(サギタ・マギカ) 連弾・闇の29矢(セリエス・オブ・スクーリー)』」
「ガアアァァァァッッッ!!!」

茶々丸を弾いた直後だった為、カウンター気味に入った『魔法の射手』は
全弾外す事無く命中しヤツを向こうの茂みに吹き飛ばした

「無事か?茶々丸。」

ヤツに弾かれた茶々丸の側に行き怪我の程度を確認した

「左腕部に中度の損傷が見受けられます、戦闘行動を続行するには…」
「うひゃあ!?」
「…茂みの向こうに反応を確認、一般生徒と思われます。」
 
なっ、結界の中に一般人が入って来ていただと!?
稀にこういうのがいるのは大して気にしないが、何も今此処に出てこなくても良いだろう!

「茶々丸、お前は一般生徒を保護しろ!私はヤツにトドメを刺す!!」
「了解です、マスター」

返事と共に茶々丸は足のブースターを使い真っ先に茂みの向こうに進んでいった
既に捕捉しているのだろう
…さて、どの程度でくたばるかは知らんがくたばる迄『魔法の射手(サギタ・マギカ)』を喰らわせてやる!!

茂みを抜けると既に茶々丸が一般生徒(邪魔者)を確保し少し離れた所に居た
フッ、私の教育の甲斐あってなかなか仕事が早い。
これなら遠慮せずに打ち込めるというものだ!!!
私は懐にあったフラスコ全てを全て『魔法の射手』に変えヤツに叩き込んだ。

「トドメだ!!喰らえ!!」

ドドドドドドドドドドドッ!!!!!

「ガアアアァァァァァッッッ…」

ヤツの断末魔と土煙が上がり私は十分な手ごたえを感じた
…尤もコレで倒せんかったら手詰まりなんだがな。



……

………

土煙が収まり茶々丸が近くに寄って来た

「マスター…。」
「あぁ…」

『多少』の大きさのクレーターの真ん中にヤツは横たわっている…が

「生命反応は感知されません、既に絶命している模様です。」

戦闘不能になった場合召喚された魔物は契約が解除され、こちら側の世界には居られないはず
なのに何故ヤツは此処にまだ居るのだ…?

「茶々丸、コイツを『別荘』入れる。連れて帰れ。」
「了解です、マスター。一般生徒の対応は如何しましょう?」
「…ん?」

そういえば居たな…正直面倒な事だが…
口封じの為の記憶操作なんて他の魔法先生や魔法生徒にやらせればいいが
いちいちジジイに小言を言われるのも癪な話だ
だが、向こうを見ると目の前の出来事をまだ消化出来ていないようだし…ん?

「アイツは…」
「クラスメイトの長谷川さんです。」

フッ、まぁアレなら少々脅す程度で事足りるか

「おい、長谷川千雨…」
「な、なんだよ…」
「私達はこれで消えるが…今あった事は誰にも言うな…」
「…。(ゴクッ)」
「もし誰かに喋ってみろ…貴様の血1滴残らず吸い取ってやる」
「なぁっ…」

クックックッ…、なかなかに良い怯え顔だったな
これなら記憶操作なんぞせんでも誰かに喋る事なぞ無いだろう

「行くぞ、茶々丸」
「はい、マスター。長谷川さん、また明日学園でお会いしましょう。」

私は茶々丸を帰るよう促したが
いちいち面倒な奴だな茶々丸は、律儀に礼なんぞしなくてもいいだろうに…

長谷川千雨の視界から完全に消えたと思われる場所に着いた頃
行きと同じように茶々丸の肩に乗り帰宅しようとしたが

「現在、左腕部が破損。
 自宅内にあるスペアパーツと交換しない限り、マスターをお乗せして飛行する事が出来ません」

と、言われてしまった…
先程からピクリともしないコイツなぞ持ちたく無いし
かと言ってムリヤリ乗って落とされても敵わんからな…しょうがない歩くか…

公園を離れ、自宅であるログハウスが見えた頃急に茶々丸がヤツを後ろに投げて
私を庇うように立った

「生命活動の再開を確認、マスターお下がり下さい。」

…なっ、息を吹き返したか!?
家まで行けば予備のフラスコはあるが…まだ遠いか!

「チッ、茶々丸。一度家まで戻…」

言いかけたが目の前の現象を見て言葉を失った…
横たわっているヤツの周りに光の膜のような物がありヤツを包んでいた
眩む程の眩しさでは無かったがヤツがどうなったかは確認できなかった
そのまま数秒経過してその光の膜が収まった頃、私はもう一度言葉を失った

「なっ…人間だと…」

ヤツは人間の姿になっていた…



……

………

―――これが私とアイツとの出会い
まぁ、今思えばコイツが私の所に来なかったらどうなっていただろうな…

〈続く〉

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