紅と蒼の交わりし時 

 第3話 霞色






雲がはれ、夜空に蒼白く輝く月。

どれだけ立ちのぼる黒煙があろうと、その存在を侵すことは敵わない。

そんな月も美しく見えて、実際は肌はデコボコである。

地表に降りそそいだ隕石によるクレーター群のせいである。

もちろん地球上にもクレーターは存在する。

そして今新たなクレーターが生まれた。

それは直径一kmほどの小さなものであった。

専門家にとっては、たいして研究価値のあるようなものではないだろう。

ただしそれが、隕石で出来たのではなく、拳一つで出来たと聞けばどうだろうか。

街の一角に突如出来たクレーターの周囲には、物言わぬ石像と倒れ伏す黒ずみの塊が点在していた。

石像はともかく、黒ずみは元が何だったかさえわからないほど損傷していた。

ただ一つ、それが何だったかわかるものがあった。

「「グハッ……バ、バカナッ……ソ、ソン……ナァ……」」

それが最後にもれた言葉だった。

目の前で起きた出来事。

身をもって味わった出来事。

ひとり即死ではなかった者の最後の感情だった。

――驚愕

鎖を引きちぎり、力任せの一撃を地面に打ち込んだ。

ただそれだけ。

そんな方法で彼らの命をとした術は破られたのだ。

ああ、そうか。こいつは――

それが最後の思考だった。

命がまた一つ消えた。

風のざわめき、炎の叫び以外に生を感じられない。

クレーターの中心にたつ男を除いては。

その男は周囲に一瞥もくれることなく一点をのぞみ、静かにその場をあとにした。






「やっべぇ……み、見失った」

ここに、おバカがいる。

そんな出来事が起きているとはつゆ知らずというか、知りたくもなさそうだ。

当然、今しがた発生した強力な力を感じてはいた。

何が起きたのかはわからなくとも、どうなったのかはわかるようだ。

(できれば考えたくない……まじで)

「時間がな――いたっ!」

男の子を見つけた横島は息を呑んだ。

子供の目前の瓦礫に、一匹の魔物が降りたった。

他の魔物と同じようで、纏う雰囲気が違う。

二人の距離も近く、魔物の間合いの中だろう。

少しでも動いた瞬間に霊盾を投擲するつもりだったようだが、魔物は違うアクションを取った。

狂気に歪む口をゆっくり開くさまに危機感を抱いたのか、投げつけざまに駆け出す。

しかし、男の子との距離は無情にも遠かった。

自分に向かってくる攻撃に気づいたのか、モーションはそのままに飛翔して避ける。

――マニアワナイ

口が開き、腹の底からどす黒いエネルギーが湧き出るのがわかる。

横島には流れがスローモーションのように感じてしまう。

外した霊盾をコントロールして背中に当てようとするが、それでも間に合わない。

(また、また守れないのか……俺は)

さらに霊盾を爆発させるも、それでも阻止できなかった。

口から禍々しい光が降りそそぐ。

それは全てのものを石に変えていく。

草木も、残骸も、そして人の身体をも。

足下から、嫌な音をたてて石化していく。

しかし、それは子供の足ではなかった。

子供は光を浴びることはなかった。

命をとした二つの盾がそれを防いだのだ。

一人は、ゆったりとしたドレス風ローブに、タクトのようなものを持つ女性。

後ろ姿からは歳はわからないが、美しいブロンドの髪をしている。

もう一人は、まさに魔法使いという出立の老人。

二人掛かりで魔法障壁をはって石化魔法に対抗したようだ。

それでも防ぎきれないとはわかっていたのだろう。

子供だけでも守ろうという意思、迷いのない二人の表情が物語っていた。

「ぐむ……」

老人は自分の指を見るが、指先まで石化が進み、動かしたことでヒビがはいる。

女性以上に進行が酷い、どうやら一緒に行動したのではないようだ。

それぞれ己が決めて動いたこと、老人はさらに彼女さえも守ろうとしたようだ。

だからといって年若い女性の症状は軽くはなかった。

充分にその身を蝕んでいた。

「うっ…「「お……お姉ちゃ」」」

女性の苦悶の表情に気づかないのか、男の子が声をかけようとする。

その時、細い足首は音をたてて砕けちった。

「お姉ちゃん!」

崩れ落ちる身体に目を見開く。

だが、そのまま地面に叩きつけられることはなかった。

その身体を優しく抱きとめる男が一人。

女性が関わると、途端にはりきる横島、そのひとだった。

どんなことがあっても根は変わらない横島である。

しかし、不思議なことに顔はにやけていない。

その表情を一言で言えば、困惑だった。

意気揚々と助けて見れば、アウトゾーンギリギリだったのだ。

(かわええっ……だが、これは子供の可愛さかぁ? 歳にしたらギリギリセーフ……いや、アウトかぁ。くっそ〜! あと一息やったらなぁ……くぅ〜ッ)

目を瞑りながら、途方にくれる横島。

気を失った顔をよく見れば、外国人特有の大人びてはいるが、確かに横島より幼い気もする。

もともと大人の色気を好み、「熟女どんと来いッ。人妻喜んでぇ。やっぱ年上やなぁ。同級生もヨシっ。中学生はぁ……やばいかぁ? いやッ例え少年誌でも発禁覚悟ぉ! 小学生……小……学生……そこまで堕ちとらんわっ!」と叫んでいた横島。

実際、ナンパするにも、セクハラするにも年上が多かった。

いかんせん年下を意識した存在などそうはいない。

最近ではさらに、年下っぽく見える二人の仲間のせいか、思考にセーブが掛かるようになっていた。

そう悩み震える横島を心配そうに見つめる男の子。

突然、

「おうっ!?」

顔がにやける。

「む、胸があああああああぁぁぁっっっっっ!」

抱きしめた腕が大人への成長に触れたようだ。

ホンマに外道だ。

「はあっ! 俺って奴はわあああっ、そんな、そんな趣味はないんや!」

我に返ったようで、少女を地面に寝かせると、わざわざ頭を地面に打ちつける。

頭から水芸をやってのける横島。

ふと、おびえる男の子に気づき、やっとでもとに戻る。

会話が通じていたら、どんなことになっていたのだろうか。

いや、それ以前の問題だろうか。

その幼心に、世にも醜いモノを刻み込まなかったと信じたい。

そんなことをやっている横島たちとは別に、老人と魔物にも変化があった。

横島のフェイントつきの攻撃に虚をつかれたようで、背中傷を負っていた。

どうやら、霊気という味わったことがない力を噛みしめているようだ。

それでも、それで諦めるわけがない。

地面から使い魔らしき魔物を呼びだし襲ってくる。

しかし、隙は充分にあった。

そう呪文を唱えるだけの時間が得られたのだ。

最後の力といわんばかりに、懐から取り出した瓶を投げつける。

「封魔の瓶――ラゲーナ・シグナートーリア!」

光り輝く空間魔法陣が瓶を中心に発生する。

当然、無理に動かした身体は悲鳴を上げる。

身体にヒビを入れながらも、魔を封じようとする老人。

だが、とりまく使い魔たちは瓶に呑まれていったが、魔物は一筋縄ではいかなかった。

耐えつつも、もう一撃、石化光を放とうとする。

「年かの……む、無念じゃ」

自らの衰えに諦めようとする老人。

しかし、ここには諦めの悪いバカが一人。

「青い果実に何すんじゃいぃ!」

距離を一瞬でつめると霊気の剣――ハンズ・オブ・グローリーで袈裟懸けに斬りあげる。

その一撃で耐えきれなくなったのか、瓶に吸い込まれていく。

全てを呑み込んだところで自然とふたが閉まった。

そして役割を終えたと言わんばかりに、地に落ちる。

それを見据えてから、横島に視線を移す。

「フゥ……助かったぞ、若いの」

呼吸があらく、呟くのも辛そうだ。

横島はそこで初めて言葉の壁に気づく。

(えっと、こういう時は、翻訳? 通訳? 以心伝心って四文字は無理だ)

奥の手をだそうと悩みだすが、上手く頭が回らない。

(テレパシー、論外だな……あっ!)

一見わけのわからない思案をした横島は、ポケットの玉を二つ握ると、『念』と『話』を浮かびあがらせた。

そして、玉を発動させると、光が溢れ――

「「これで通じるかな? わかるって、俺の声届いてますか」」

言葉の壁を消し去る。

「んっ!? これはテレパシーか……お主は」

苦しいながらも、見極めようとする瞳。

「「あ、言ってることもわかる、成功や」」

初めてのことで、成功したことに満足しながらも、改めて話し出す。

「「えっと、俺は横島忠夫、日本人だ。英語なんてわかんないんでな、念話ってやつだ」」

「念話、東洋の術か。お主何者……いや、誰でもよい。ワシにはもう時間がない」

そう言って、男の子に目をやる。

「フゥ……無事かぼーず」

どう見ても、老人のほうが無事ではない。

石化は確実に身体を蝕んでいく。

それがわかっても子供にはどうすることも出来ない。

ただ泣きつくしかない子供に老人は優しい瞳を向ける。

「おじ……おじいちゃ『ぐむ……』おじいちゃんッ!」

石化は下半身だけではなく肺に達したようだ。

「フン……大方、村の誰かに恨みでもある物の仕業じゃろう。この村にはナギを慕って住み着いたクセのある奴も多かったからな」

子供に伝えるというより、自ら考察しているようだ。

目線を横たわる少女におとす。

「じゃが召喚されたレッサーデーモンどもの数、強力さ……相手は並の術者ではあるまい。ウチの村の奴等が集まれば……本来は軍隊の一個大隊にも負けはせん……ハズじゃからな……ぐっ」

首まで石化がきている、もう時間がないだろう。

「おじいちゃん!」

「「もう喋らな……」」

横島は、老人の目を見て言葉をのんだ。

最後に自らの火で、子供の道を照らそうとする意思を見てとれた。

横島はただ聞くしかなかった。

「逃げるんじゃ、ぼーず……お姉ちゃんを連れてな。ワシャもう助からん、この石化は強力じゃ、直す方法は……ない」

横島は唇をかんだ。

ここまで、石化が進んでいては直らない、そう感じていた。

中途半端に治療しても、石化は止まらない。

魔法というより既に呪いの領域だ。

横島の力では、中和は出来るのが精一杯。

それでは助からない。

(まただ)

横島の脳裡に嫌な記憶が蘇る。

「頼む……逃げとくれぃ……どんなことがあってもお前だけは守る。それが……死んだあのバカへのワシの誓いなんじゃ」

苦痛なんてものではないだろうに、あえて微笑みかけようとする。

(俺の目の前で)

「この者と共に、行くんじゃ。誰か残った治癒術者を探せ……石化をと、止めねば……お姉ちゃんも危ないぞぃ」

視線を横島にやる。

「すまぬが…た…頼む……こ…この子…をッ……」

静かに蝋燭の火が凍りついた。

最後まで瞳には後悔はなかった。

その意思を噛みしめ、横島はやり切れない思いを呑みこむ。

「おじいちゃん……スタンおじいちゃん……?」

物言わぬ石像にすがりつき、声をかけ続ける男の子。

どう見ても、二、三歳の子供に現実の死は早かった。

理解できないのも無理はない。

しかし、このままにしておくわけにもいかない。

横島は腰を落として、男の子の頭を撫でた。

「「今はここから離れよう。このままじゃ、おじいちゃんに叱られるぞ」」

「えっ!? これって、お……お兄ちゃん?」

不思議な現象に、一瞬びくつく男の子。

「「俺は英語喋れなくてな。俺の名前は横島忠夫っていうんだ、よろしくな」」

そう言って手を差し出す。

(俺って、子供にこんな態度がとれるなんてな……可笑しいかな)

思うところありつつ、柔らかい笑顔を見せる。

普段は見ることが出来ない純粋な優しさだった。

「あっ、うん……ネギ・スプリングフィールド」

理解は出来たようだが、ぎこちない挨拶だった。

そりゃ無理もない。

初対面のうえ、素性もわからない、奇怪な言動をする男を信用しろという方が無理だ。

震える手を強く握ってあげると、少女のほうに目をやる。

「「お姉ちゃんを助けることが、おじいちゃんの願いなんだ……わかるな」」

握られた瞬間、戸惑い、安堵、表情は変わっていく。

そして、姉を見て、また表情がこわばってしまう。

ネギの手を引くと、姉のそばによった。

「お、お姉ちゃん? 起きてお姉ちゃん、お姉ちゃん……うっううう」

姉の苦悶の表情に、また涙をぽろぽろと流す。

横島は折れた足首を診る。

「「足首を繋げたとしても、石化が問題だな……呪いの一種か」」

先ほどの魔物は厄介なモノを残していったようだ。

自分の力では、たとえ、石化を治しても、また石化が身体を蝕みだすのだ。

(せめて、あと二つ使いこなせたら……何かないか)

いつになく真剣に思考を働かせたことが、気づくのを遅らせた。

ハンズ・オブ・グローリーを構えたときには、炎の壁から姿を現していた。

地獄の三丁目だろうが、追っかけてくるであろう追跡者。

震えるネギと姉を庇うように対峙する。

横島は覚悟を決めていた。

(この場を逃げることは出来るだろうが、こいつはそれでも追いつくだろう)

足留めにもならなかったようで、無傷な上に、表情も読みとれない。

(決着をつけるしかないようだな)

玉に『守』と『護』を込め発動させる。

二人を翠緑の玉が包んだ。

そして、『転』と『移』の玉をネギに渡す。

「「この中から出るなよネギ。もし……俺が倒れたら、お姉ちゃんの手を握って、頼りになる人がいる場所のことを想像するんだ、わかったな」」

(自分にもしものことなんて考えとうないが……こればっかはな)

その時を想像してか、頭を強く振ってかき消している。

「「ようし。やっちゃるで、来いやぁ!」」

横島が燃えていた……本気と書いてマジという。

そんな横島の覚悟を、相手はある意味裏切ってくれた。

ゆっくりだが、一歩一歩あゆみを止めない。

その足どりに、攻撃のタイミングがつかめない。

相手はまさに隙だらけの無防備姿をしているから尚更だ。

それも横島の間合いに、堂々と踏み込んでくる。

その隙だらけの様相が罠なのかわからない。

そして、文字通り目の前まできた。

「「おっ、おいおい」」

さすがに、度胸試しだろうが、ここまで来られるとは横島自身思ってもみなかった。

仕掛けるタイミングを見失った、ってところだ。

どちらも動きがないまま、一瞬が数時間たったような気がした。

その沈黙を破ったのは、一言だった。

「すまない」

「「へっ?」」

突拍子もない一言に、何を言っているのかわからなかった。

「お前という存在がわからなかった……その持つ力」

若く力強い声が響く。

「「つぅ!」」

男の言葉に、息をのむ。

秘めた霊質を見抜かれたことに驚くも、それには納得するしかなかった。

「「……なるほどね、しかたないよな」」

(俺はもう……)

返事を待っていたわけでもなく、自分のタイミングで続ける男。

「お前がいなければ、その二人は助からなかった……ありがとう」

そういって、横島の横を通りすぎ、少女の足首を診る。

懐から香水瓶のようなモノを取りだし足首のまわりに振りかけた。

すると、赤紫の煙が湧き出る。

少し警戒しつつも成り行きを見守っていた横島は目を見開く。

煙がはれた時には足首はもとに戻っており、どうやら石化の進行も止まったようだ。

その効果に素直に呆れ驚く横島。

「「そんなのありかよ」」

一気に脱力感に襲われる。

故にか、ネギが未だ震えていることに気づけなかった。

一難は去っても、事態の解決とはいかなかった。

多くの石像、燃え上がる火災、雪の積もる凍りつく寒さ。

火の勢いが強まり、誰も口にせずともその場を移ることにした。






村を一望できる草原にたたずむ四人。

――『治』『癒』

奥の手の不思議な玉を発動し終える。

「「どうやら、完治したみたいだな」」

呪いの解けた石化を直すのは簡単なことで、一緒に火傷や擦り傷も治療していた。

一段落したと落ちついたところで、横島が気づく。

「「んっ? ネギどうした」」

ネギは、俺達と距離をとっている男をじっと見つめている。

その手には、先端に星のついた棒、杖というよりステッキというべきか。

燃えさかる村を眺めていた男は、その強い視線に気づく。

視線が絡み合い、男はふと呟く。

「そうか、お前が……ネギか」

「「ね、ネギ? どうしたんだ」」

その行動に意味がわからない横島。

男はゆっくりネギに歩みよる。

「お姉ちゃんを守っているつもりか?」

そこで気づく、ネギが男に恐怖を懐いていたことに。

怪しさでいえばどっちもそうだが、その圧倒的力は、畏怖を通り越して、恐怖となっていた。

「「ね、ネギ。そのひ……」」

その雰囲気に横島は言葉を止め、その成り行きを見守った。

ネギの目の前で立ち止まる男。

守るといっても、ただ立ち尽くすしかないネギは目をつぶる。

――くしゃ

頭に手を置いた、ただそれだけ。

撫でるわけでもない。

それでもわかってしまう、男の深い想い。

そして一言。

「大きくなったな」

とっさに顔を上げるネギ。

その顔を見て、思いついたように手をあげる。

「お……そうだ。お前に……この杖をやろう」

それは、男の背丈以上に長い杖だった。

「俺の形見だ」

その言葉は違う形で、二人に届いた。

「「形見?」」

「……お、父さん?」

ネギの衝撃的発言に目を丸くする横島。

その言葉に悲しいようでとても優しい瞳を向けると、ネギに杖を渡した。

「あっ」

「ハハハ……重すぎたか」

バランスを崩して杖を地につけてしまう。

長さだけでも充分子供にはあわない。

「……もう時間がない」

それは唐突だった。

「えっ!」

当然驚く、二人。

「ネカネは大丈夫だ。彼が……ヨコシマといったか。おかげで完治している」

突然話を振られて驚くが、視線を男にやると、再度驚かされる。

浮いたのだ。

それこそ、フワッと。

「悪ぃな。お前には何もしてやれなくて」

(おっ、おいおい?)

「……お父さん?」

二人の反応は当然だろう。

もちろん納得できるわけもなく、ネギは手を伸ばす。

でも届かない。

ただもう一度触れて欲しい、触れたい。

そんな気持ちが見てとれる。

だから走り出す、精一杯。

徐々に離れていく父親を追いかけながら叫び続ける。

「こんなこと言えた義理じゃねえが……元気に育て……幸せにな!」

顔を上げて走りつづけたせいで、足をとられて転ぶ。

「お父……さん」

顔から突っこんで泥だけの顔を上げると、頬を濡らしていた。

「お父さんあああん!」

その叫びは傍観者をも動かした。

「「待ってろ! ネギ」」

突然かけられた言葉に、一瞬嗚咽をとめる。

『飛』『翔』と発動させ、天に舞い上がる。

「「首根っこ捕まえてでも連れ戻すからな!」」

茫然顔のネギを残して、後を追い上空に昇った。






空高く、雲が広がる領域。

鳥をも超えるスピードで迫る横島。

相手はゆったり漂っていたため、すぐ追いついた。

「「こら待ちやがれ!」」

気づいたのか、振り返る。

その姿を見ても驚きもしない。

「「なんでネギたち置いていくんだ!」」

「俺は……もう傍にいてやれない」

応えているというより、自分に言い聞かせているようだ。

「「ふざけんな! ネギの気持ちも考えろ、あんな幼い子供残して行くきか」」

自分らしくないとは思った……そんな熱い男じゃないと。

人には人の考えがあるともわかっていた。

(だが、「お前には何もしてやれなくて」だぁ、「元気に育て、幸せにな!」って、お前本当に親父かよっ!)

その気持ちは怒りだった。

「俺がいなくても、ああ元気に育ってる。あいつは強い子だ」

「「そんな自分勝手なセリフを子供が望んでいるって思うのかぁ!」」

それに反論もしない。

表情も変えない。

ただただ言葉を受け止めるだけだ。

「「バカぁやろう! お前何もわかっちゃいない!」」

あの表情、あの仕草、ネギを愛していないわけじゃないだろう。

いや、愛しているからこその短い挨拶だったのかもしれない。

でも、納得できなかったのだ。

「「残されたものが、どれだけ傷つくか……」」

(勝手だよ、残された奴は……どうすりゃいんだよ。俺は……俺は……そうだ、そういえば、あの人も)

「「知り合いに、同じような境遇で、強突張りの守銭奴になった大人もいるんだ。小さい頃はあんなに純粋で可愛かったのに、あんなのに「お前も残されたのか」――くっ!」」

確かに、彼女だけではない。

そんな葛藤を見て、男は安心したような表情を見せる。

「……ふっ、大丈夫だと確信したよ」

表情を和らげる男とは逆に、毒気を抜かれる横島。

「「なぁ!? お前、話聞いてなかったのか」」

迷いのない言葉が告げられる。

「お前がいる」

逆に戸惑ってしまう。

「「そ、そんなッ」」

――俺に何が出来る

「迷惑承知で頼む……お前じゃなきゃだめだ」

「「俺に……俺には誰も守れない」」

拳に爪が食い込み、血がしたたり落ちる。

「……守れるさ」

「「っう! 俺のことも知らないくせに、何いいやがる!」」

拳をあげたまま、目をつぶる。

「守れる……わかるんだ」

――俺が守れる?

顔を上げ、相手を睨みつける。

初めて、瞳を交わす。

互いに何を感じ取ったのかはわからない。

しかし、張り詰めた空気がそこまでだった。

「「ふっ、なんだよそれ」」

いつもの横島に戻っていた。

そのいい加減な答えに、笑みで返していた。

男もいい表情をしてみせる。

「時間か」

その一言に、違和感を感じた。

「「んっ!?」」

二人の距離が離れていることに気づく。

相手がスピードをあげたわけではない。

横島が落ちているのだ。

「「もう時間か、って待て! 話はまだ終わってないぞ」」

すでに表情も確認できないほど離されていた。

「ネギたちを頼む」

届くはずのない呟きが耳元に流れる。

「「くっそぅ、自分勝手なこと言いやがって」」

ポケットを探るが、もう玉のストックはない。

(もうやれることは何もない……ないのか)

もう姿も捉えられない。

(いや、ある)

「「ふぅーっ……ぜってえぇお父さんとは呼ばねええぇからなあぁ!」」

その顔は満足気だ。

コメントできないほどのアホだ。

そして、言い残せたのはそこまでだった。

重力が全体にかかる、効果が切れたのだ。

雲の位置から見てたぶん地上三千メートルからのダイブ。

「「こ、こんなんばっかりやあああぁぁぁ……!」」

ドップラー効果をあげながも落ちていく。

さすがの不死身といわれる横島でも、この高さは命取りになるだろう。

「「も、文珠! 生成できないと、ま、まじ死ィぬううぅぅぅ!」」

指先に、全身全霊をかける。

ビー玉のようなモノの正体、それは文珠。

霊力を凝縮し、キーワードで一定の特性を持たせて解凍する技。

稀有な技で、人間界では現在、横島のみが使える万能技である。

指先に生じた光が消えると、文珠が出来ていた。

さすがにピンチには強い横島、こんな状況でも作りあげることに成功した。

あとは、何と込めるかだ。

一つの文珠に漢字一文字を込めることが出来る。

発展系として、同時に複数の文珠を使うと効力・応用範囲が劇的に広がる。

ただし、その分コントロールに超人的な霊力に修練が必要となる。

横島は現在、二つまでは完璧に使いこなしている。

と、そんな余裕はないようだ。

眼下に、景色が広がってきた。

「た、確か、ま、前にもこんなことが……そうやッ!」

『柔』

確かに、地面が柔らかくなれば、クッションとして勢いを殺せる。

とっさにしてはなかなかナイスアイデアだ。

ただし、地面が固形だったらの話だ。

――ドボーッンンン!

水飛沫をあげて、寒い水面に叩きつけられる。

落ちたのは、湖。

液体が柔軟性をおびたら、転落死はしないだろうが

「「ごぼっ、溺れ、る! か、からみ、つ、つくぅ!」」

水死するだろう。






「……ああああんっ! うわあああぁぁぁ……」

涙が枯れるかのごとく泣き叫び続けるネギ。

傍らのネカネはいまだ目覚めていない。

いつまでも涙は流れ続くと思いきや、そうもいかなくなる。

そこに忍び寄る影。

「ああ……んッ!?」

泣くのに理由はいらない、泣き止むのもそうだ。

この子は賢い子だった。

魔物が、まだ生き残っていたのかと振り向く。

そこには、

「「……ネギ、ごめんな」」

水浸しの格好で、疲労困憊の様子の横島だった。

なんとか立って、片手で力無く謝る。

「「連れ戻せなかった、俺」」

「うっ、うっ……うわああああん」

結果や安堵感でもなく、本能が人の温もりを求めたのだろう。

横島に抱きつくと、本日一番の泣声があがった。

その小さな身体を強く抱きしめると、横島は応えて――

「「ネ、ネギ……うっ!」」

口を押さえる。

「「ぐうえ!」」

――ぴちぴち

大きな魚が口からとびだした。

応え方が違う……人間ポンプかお前は。

シリアスを決めるに決められないって、本当に不憫だ。

最後に大技をみせた横島はそのまま意識を手放した。

「うぇ……だ、大丈夫!?」

悲しみが一気に、心配に変わる。

確かに涙は止まった、横島らしい止め方で。

(もう……いやッ――)

そんな最後に記憶に残ったのは。

揺さぶられる振動。

心配する掠れ声。

夜明けにうつる飛行船の映像だった。










あとがき

漫画を小説におこすと、やっぱり変な感じです。
間とか、……の使い方が読みにくいのはごめんなさい。
(ちなみに、この小説では……は一呼吸の間です。――は「」内では瞬間、中断を表す表現。普通は心情や強調を表しています)

言葉の壁は文珠を使いました……反則技ですが、これについては、ちゃんと決着をつけてありますからご勘弁を。

文珠は二つまで使いこなせることにしました。
(原作を知らない方へ、文珠は漢字を込めて発動させるんですが、複数使うほど効果、応用力は強くなります。漫画ないで、未来の横島は十四文字使い時間移動を可能にしてました……反則です。チートです)
さすがに、そう簡単に三つ四つと使いこなせるのは、おかしいかと……原作終了後ということから考えると。
超加速(一時的に時の流れを遅らせる、神クラスの技)のこともあって、三つにしたかったのですが……これもやっぱ反則やん。それに三文字は自分のキャパシティーを超えてしまう恐れがあって、面目ありませんが、二つでがんばります。

途中、ぶっちゃけてますが、正直横島の好みって? 
漫画当時は恋人が欲しいっていうより、やりたい盛りの高校生って感じで、大人の女性、色気ある女性が好みというシンプルでわかりやすい男でした。どう見ても、年下に興味って感じ、あまり感じなかったんですよね。やれるって事が大事だったのかな?
ここでロリコン問題が出てきます。一応、横島は高校生。自分の考えでは、学生時代、恋愛は同級生や、上級生、下級生までわかります。年上に興味を持つのもわかります。が……階級?というか、 中学生って話はでたことがなかったんですよね。確かにいないわけではなかった、クラスメイトがつきあってるって話はありましたが、奇異な目を受ける存在でしたね。やはり年下とは言え、またぐほどの対象をみただろうか? ふつうなら、一桁の年下なんて気にしませんが、学生時代はそうでもないわけで。
最近じゃSEXもありみたいですが、やはり中学生相手には……作者が無理ですね。清き正しい恋愛? それで横島を書くのは……やはり無理だ。
みなさんはアリでしたか?  

かなり推敲を加えました……えっどこが? ……がんばって書いてこ。

〈続く〉

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